白黒つけよう
単純な盤上ゲームといったらオセロだろ。
白黒つけるって実はオセロからきてるんだぜ。あんまり人様の前でこんなこと言わないほうがいいと思うけど。
ハンゲームにもオセロがある。
以前ハンゲームブームが春風のごとく到来し、満開の桜が葉桜となるかのごとくものすごい勢いで去っていった。
ハンゲームでオセロをすると、もれなくチャットもついてくる!別にうれしくもないんだが、とにかくオセロしながら会話できるのだ。たいてい、「よろしくー」とか、「ありがとー」とか「よろー」とか「ありー」とか「4649」とか「ごるばちょふ」とかまぁそんな挨拶程度の話しかしないんだが、時々妙に絡んでくるやつがいる。
たいてい頭の狂ったエロ餓鬼なんだが、いやはやなんとも、餓鬼らしい稚拙なエロワードを駆使して一人で大興奮。お前は馬鹿か。餓鬼が。とか思いながら、「へーエロいねー」なんて乾いたコメントを送ったり、無視したりと、その日の気分によっていろいろである。
そんななか、確率的にいうと海がめが大人になるまで生き残るくらいの確率でまともな人間にあたるときがある。
まともな人間はオセロのこつを教えてくれたり、逆に問うてきたりと、オセロ大好き人間的変態である以外は特にさしたる異常も見受けられない。
その時も、そんなオセロ大好き人間的変態な女の子だった。
まぁ、ネットですから、性別なんか簡単に詐称できるわけなんだけど、とにかくそいつは女らしかった。
そいつは僕にオセロで負けた後、僕を質問攻めにした。暇だった僕は逐一答えたとも。満足したのか、急に話を変えるそいつ。
「じゃあいろいろ教えてくれたお礼に、もてるコツを教えてあげる」
この時点でもうこいつ餓鬼だなきっととちょっと嫌気が差すのだが、まぁいいや聞いてやろう暇だしと果てしなく上からものを見る。
「Aさんはもてる男の子です。Bさんはもてない男の子です。なぜBさんはもてないのでしょう」
「Bさんは暗いから」
「暗くてももてる人はいるよ…」
はて、僕は何か変なこといったんだろうか。暗い人間はもてないと思っている僕としては、間違ったことはいっていないと思うのだが、どうやら正解は他にあるらしい。
「Bさんは小さいころ重い病気を患っていて、手術を要した。幸い手術は成功したものの、輸血時に輸入物の血液を検査なしに使用したため、白血病を患ってしまった。Bさんに絶え間なく訪れる試練の数々。Bさんは健康であるという幸せを夢見つつ、親の反対を押し切って普通中学に編入学する。そこで出会ったのは学年一の美少女Hさん。Hさんに甘い恋を抱きながらも、自分が病気であることが負い目となって、なにもできないBさん。子供というのは敏感で、そして残酷だ。クラスのみんなはすぐにBさんの異変に気づいた。こいつは俺たちとは違う。しかも生意気にもHさんを好いているようだ。クラスで孤立するBさん。僕は…みんなと違う…だめな人間なんだ…そんななか、優しく手を差し伸べてくれた人がいた。ほかならぬHさんである。『みんなやめなよ!』Hさんの声が教室に響く。『よってたかってBくんをいじめて!クラスメートじゃない!』Bさんは急に恥ずかしくなって教室を飛び出した。『Bくん…』しんとした教室の中、Hさんだけがつぶやいた。」
「なにいってんの。」
はっとわれに返る。あぶねえ。感動物語になるところだった。いまどきHさんみたいな人いないから。絶対。むしろそういう人に限っていじめとかするから。いじめはんたーい。美人はんたーい。劣情はんたーい。
「正解はね、男の子に見られてないからだよ」
えっ。それだけ?いや、当たり前っちゃ当たり前だけどそれもケースバイケースじゃないかなぁ。っていうか僕のBさん物語途中で打ち切っといてそんなのが正解かよ。
「だからね、手っ取り早くもてたかったら男らしく行動すればいいんだよ」
そんなたわいのない話をしつつ、オセロなんかしてたんだが、まぁすぐブームは去った。
らしいらしくないなんて、抽象的過ぎてどうでもいいことなんじゃないかと思うんだ。だって男らしいってのにもいろいろあるし、女の子の好みもいろいろなんだよ。男に見えないってのは問題だけど、女じゃないなら男だろうさ。…たいてい。
大事なのは「自分らしくあること」じゃないのかな。
高校時代が終わりを告げる少し前、クラスの女の子が学校祭の時の写真をみんなに配っていた。
かわいい封筒に入った写真に写るのは、勇猛果敢に戦ういざなぎ。行灯の写真だ。ほしい写真の番号を書いてねっ!って感じの封筒とか、メモとか、名簿とか回ったりするじゃないですか。写真のサンプルと一緒に。いつものことなんだけど、番号を間違えるんだよね。
頼んだ覚えのない、女の子だけの集合写真とか入ってた。びっくりだ。なんで自分が写ってない写真、よりによって女の子の集合写真をチョイスしたんだろうね。まるで変態じゃないか。
一人で写真を見ながらうへーとかもらしながら、丁重に封筒に戻し、ファイルに入れる。思い出のひとつだ。
ふと、声が聞こえる。
「男の子にはね、手紙が入ってるらしいよ!」
写真をくれた女の子ではないのだが、そんな声が。
ほう。かわいらしいことをするではないか。とオヤジのようにニヤニヤしながら先ほどしまった封筒を取り出す。さっきはなかった気がしたが、きっと見落としたのだろう。
うきうきしながら封筒を覗き込む。なにせ女の子からの手紙だ。
…見当たらない…
あれぇおっかしいなー。男の子には手紙じゃなかったっけー。
あわてて付近を見渡す。が、もちろん落ちていない。
あれぇおっかしいなー。
そのときフラッシュバックするあのメッセージ。
「男の子に見られてないからだよ」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……………
・・・大切なのはさ、「自分らしくあること」だと思うんだ・・・。